2011年 06月 06日
2011年6月白雨館ゼミ |
6月のゼミは、6月25日に白雨館で開かれます。
今回は、工学院大学の篠沢健太教授をお招きし、ランドスケープからの復興計画のありかたを、現地報告を交えて討論する予定です。このため事前の準備として被災地の現状を佐々木の視点から整理しました。ゼミ生はあらかじめ読んでおいてください。
1.被災地の現状
3.11の東日本大地震による東北地域の被災状況がいかに大きいかは、三か月がたった今でも、仮設住宅建設が目標の10~30%しか建設されず、避難所生活者が10万人以上、死者1万5千人、今なお行方不明者は1万人近くあり、多くのインフラが損害を受けたままです。
また、瓦礫撤去の進捗状況は地域差が多く、野田村や普代村など岩手県沿岸北部は撤去が終わっているが、陸前高田市、大槌町等沿岸部は、いまだに大量の瓦礫が残り、復興の妨げになっています。 上記の写真は、6月時点での岩手県大槌町の瓦礫未撤去のままの風景。この下にはいまだ遺体が残されています。大槌町は、町長が津波の犠牲者となり、950人以上もの行方不明者がいます。町の目標は、9~10月撤去終了とのこと。
2.原発事故の現状
一方、これまでの地震被災状況と大きく異なるのは、福島第一原発崩壊による放射能汚染被害です。現在も放射能汚染被害地域が拡大、原発は炉心のメルトダウン事故となったロシアのチェルノブイリ事故と比較される深刻な状況が続いています。(下図参照)
下記の図は、左が福島第一原発から漏れた放射の広がりを福島県発表データをもとに図化したもの(早川由紀夫(群馬大学)赤:8マイクロシーベルト黄色が0.5マイクロシーベルトゾーン)。
右図は、チェルノブイリ事故の被災範囲との比較図。もし、このまま放射漏れが拡大すれば、名古屋、大阪までも巻き込む大惨事となることがよくわかります。 しかし、6月に発表された国際原子力機関IAEAの報告では、福島原発事故では、放射線被ばくの結果、人が健康上の影響を受けた事例はなく、状況は深刻だが一段と悪化はしていないと述べています。これは、設計自体に欠陥があったチェルノブイリと異なり、福島は原子炉の構造が異なるため拡散範囲は周囲約2~3㎞にとどまるのではないかとの海外報道(サーチナ)からも、一定の安心感を私たちに与えてくれています。しかし、福島県小中高校での時間制限での運動場利用、首都近郊での電力節電、サマータイム実施、農水産物の出荷停止処置など、直接被災していない日本の全域の日常生活にも多様な原発事故の影響が出始めています。
3.復興計画の現状
被災後、3ヶ月たつと、造園学会他建築、土木学会や民間研究機関が復興への指針を提案し始めました。被災地の自治体も、復旧から復興への足並みが整い始め、各県が復興計画案を発表し始めています。この内、宮城県と岩手県の内容を紹介します。
宮城県は、以下の復興計画1次案を発表。
①特区を活用した水産業の振興、
②復興住宅全戸に太陽光発電、
③エコタウン構想によるバイオマス発電や太陽光発電によるエネルギー供給源の確立、
④原状復復帰困難な地盤沈下農地の国による買い上げで、公園・緑地整備・・・などが概要。しかし、財源の裏付けはなく国からの補助待ち状態。
岩手県
岩手県の復興計画案はもっとも理解しやすいモデルです。ここでは、県の被災状況を三つに分類した上で、被災地各市町村で作成する復興計画のたたき台として、5月23日に発表されました。三分類は下記表のA~Cの3パターン。(参照:ケンプラッツ総合・日経BP社) (パターンA)市街地全壊(陸前高田市、大槌町など)・・・・・根本からの都市再生を図る。
(パターンB)海側市街地被災(大船渡市など)・・・残存する市街地を生かした都市再建を図る。
(パターンC)集落被災(田野畑村など)・・・・・・高台への集団移転で将来の津波回避を図る。
岩手県は、これらの具体的なイメージを、3パターンに分けて平面モデルと断面モデルで表現していますので、以下に紹介します。
パターンA:市街地全壊地域の復興モデル案 パターンAでは人が集まる住宅地や商業地、公共施設のエリアを高台や山際に配置する。漁業関係施設などを配置せざるを得ない臨海部には、徒歩で避難できる場所に避難ビルや避難タワーを設ける。海岸から山際までを津波の緩衝地帯とし、防潮堤や防潮林、公園、道路盛り土などで多重防災を図る。
この計画では、現地での市街地復興を核とし、津波対策にはビル・タワーなど高層建造物への避難が考えられている。業務地域以外は公園緑地と防潮林として利用される。農地は、国道など道路の嵩上げで守られた奥部に配置。商業地と住宅地は、地盤嵩上げと高台造成によって新しい街の建設を行うモデル案です。
パターンB:海側市街地被災地域の復興モデル案 海側市街地が被災したパターンBでは、従来の市街地の再建を基本としつつ、住宅は高台やビルの上層階に移転させる。臨海部の商店や事業所は従前の場所に再建することを前提に、防潮堤などの防災施設を整備する。過去の津波浸水エリアには避難道路の整備と併せて、防浪ビルや避難ビルなどの建設を進める計画モデル。
この計画は、都市機能の一部喪失ゾーンであるため、従来の街並み復興が基本となる。臨海部の工業地は、商店と共に原状復帰を目指し、津波時には高層ビルやタワーへの避難場所を確保。被災を受けた住宅地は一部嵩上げと、新たな高台移転地の確保を目指したモデル案です。
パターンC:漁業集落の壊滅+一部喪失地域の復興モデル案 海辺の集落が被災したパターンCは、コミュニティーを維持したまま集団での高台移転や、集落内で津波の危険性が低い山際への移動を図る。被災地の地盤のかさ上げや避難路の整備も進める。また、職住分離の不便を解消するためにアプローチ道路を整備する。
この計画では、漁業水産施設を高台避難が可能な区域に配置。浸水被災し一部集落を喪失した地域は公園緑地とし、集落内の再編を目指す。さらに新しく嵩上げと高台造成によって集落移動を提案しています。 以上
今回は、工学院大学の篠沢健太教授をお招きし、ランドスケープからの復興計画のありかたを、現地報告を交えて討論する予定です。このため事前の準備として被災地の現状を佐々木の視点から整理しました。ゼミ生はあらかじめ読んでおいてください。
1.被災地の現状
3.11の東日本大地震による東北地域の被災状況がいかに大きいかは、三か月がたった今でも、仮設住宅建設が目標の10~30%しか建設されず、避難所生活者が10万人以上、死者1万5千人、今なお行方不明者は1万人近くあり、多くのインフラが損害を受けたままです。
また、瓦礫撤去の進捗状況は地域差が多く、野田村や普代村など岩手県沿岸北部は撤去が終わっているが、陸前高田市、大槌町等沿岸部は、いまだに大量の瓦礫が残り、復興の妨げになっています。
2.原発事故の現状
一方、これまでの地震被災状況と大きく異なるのは、福島第一原発崩壊による放射能汚染被害です。現在も放射能汚染被害地域が拡大、原発は炉心のメルトダウン事故となったロシアのチェルノブイリ事故と比較される深刻な状況が続いています。(下図参照)
下記の図は、左が福島第一原発から漏れた放射の広がりを福島県発表データをもとに図化したもの(早川由紀夫(群馬大学)赤:8マイクロシーベルト黄色が0.5マイクロシーベルトゾーン)。
右図は、チェルノブイリ事故の被災範囲との比較図。もし、このまま放射漏れが拡大すれば、名古屋、大阪までも巻き込む大惨事となることがよくわかります。
3.復興計画の現状
被災後、3ヶ月たつと、造園学会他建築、土木学会や民間研究機関が復興への指針を提案し始めました。被災地の自治体も、復旧から復興への足並みが整い始め、各県が復興計画案を発表し始めています。この内、宮城県と岩手県の内容を紹介します。
宮城県は、以下の復興計画1次案を発表。
①特区を活用した水産業の振興、
②復興住宅全戸に太陽光発電、
③エコタウン構想によるバイオマス発電や太陽光発電によるエネルギー供給源の確立、
④原状復復帰困難な地盤沈下農地の国による買い上げで、公園・緑地整備・・・などが概要。しかし、財源の裏付けはなく国からの補助待ち状態。
岩手県
岩手県の復興計画案はもっとも理解しやすいモデルです。ここでは、県の被災状況を三つに分類した上で、被災地各市町村で作成する復興計画のたたき台として、5月23日に発表されました。三分類は下記表のA~Cの3パターン。(参照:ケンプラッツ総合・日経BP社)
(パターンB)海側市街地被災(大船渡市など)・・・残存する市街地を生かした都市再建を図る。
(パターンC)集落被災(田野畑村など)・・・・・・高台への集団移転で将来の津波回避を図る。
岩手県は、これらの具体的なイメージを、3パターンに分けて平面モデルと断面モデルで表現していますので、以下に紹介します。
パターンA:市街地全壊地域の復興モデル案
この計画では、現地での市街地復興を核とし、津波対策にはビル・タワーなど高層建造物への避難が考えられている。業務地域以外は公園緑地と防潮林として利用される。農地は、国道など道路の嵩上げで守られた奥部に配置。商業地と住宅地は、地盤嵩上げと高台造成によって新しい街の建設を行うモデル案です。
パターンB:海側市街地被災地域の復興モデル案
この計画は、都市機能の一部喪失ゾーンであるため、従来の街並み復興が基本となる。臨海部の工業地は、商店と共に原状復帰を目指し、津波時には高層ビルやタワーへの避難場所を確保。被災を受けた住宅地は一部嵩上げと、新たな高台移転地の確保を目指したモデル案です。
パターンC:漁業集落の壊滅+一部喪失地域の復興モデル案
この計画では、漁業水産施設を高台避難が可能な区域に配置。浸水被災し一部集落を喪失した地域は公園緑地とし、集落内の再編を目指す。さらに新しく嵩上げと高台造成によって集落移動を提案しています。 以上
by landscape_lab2006
| 2011-06-06 12:08
| ゼミ資料